勧進とは
お寺の新設や改築など多額の費用が掛かる事業に際し、その趣旨などを記した寄付をお願いするもので、勧進帳はそれを書きしめし、またそれに寄進(勧進)してくれた人の名前などを記載するもの
あらすじ
のちに鎌倉幕府将軍となる兄の源頼朝に嫌疑をかけられる弟の源義経。頼朝から追われる義経は奥州(現在の東北地方)藤原氏を頼り、お供を引き従えて都からそこへ落ち延びようとする。
場面は加賀の国・安宅の関所(現在の石川県)
関所を護るは富樫左衛門(以下富樫)と番卒3名。山伏に変装している情報はすでに入っており通過したいという山伏はことごとく引っ捕らえると待ち構える。
義経の家来で主役となる武蔵坊弁慶(以下弁慶)、ほか4名の家来が山伏に姿を変えて登場
義経は強力(ごうりき=荷物を運ぶ従者)となり、関所に到達。
弁慶が関所を通過したいと伝える。しかしそれはまかりならんとする役人。
勧進を集める役目が叶わぬとなげく弁慶は5人の山伏全員ここで自害すると祈祷を始める。
その覚悟を見た富樫が「なんのために勧進をあつめているのだ?勧進帳を読んで聞かせてくれ」と問う。
当然ながらそのようなものを持ち合わせていなかった弁慶だが、機転を利かせ白紙の巻物を恭しく広げ、東大寺の再建であるかのように読み上げる。
未だ偽物であろうとする富樫はそれを盗み見ようと近づくが弁慶が気づき、さっと身をひるがえして隠す。(弁慶は勧進帳が極めて大事な書類のため見せることはできないことを知っていた。寄進してくれた名前とかかいてあるため)
読み上げた後、富樫は山伏について立て続けに質問をする。それに対して何のためらいもなく答える弁慶。緊張感のあるシーン。
弁慶の回答に疑う心が晴れた富樫はその場で勧進することを弁慶に伝え「布施物(ふせもつ)もて」と番卒にいう
一度受け取るも非常に多くの勧進を受けたため、また帰りに立ち寄り受け取るので預かっておいてくれと伝え、関所を抜けようとする。
番卒の一人が、強力(ごうりき)が義経に似ていると進言し、富樫がすぐに呼び止める。慌てる弁慶が立ち戻り、強力を叩き伏せて置いていくので好きにしろ。と主である義経を杖で打つ(打擲)。主従関係の厳しい時代にありえない行動。
あまりの激しさを目の当たりにした富樫はその弁慶の覚悟に心を打たれ、通過を許可する。(この時には義経一行であることに気が付いていたのではないかといわれている)
ここで義経と家来の場面に代わる。弁慶は緊急事態であったとはいえ主を打ったことに自分を責める。義経は弁慶を誉め許し、自分の武運のなさを嘆く。
関所を通過してしばらくし、富樫が一行を呼び止め疑ったお詫びに酒をすすめる。弁慶、お酒がすすみ番卒との戯れがあり、お礼に「延年の舞」を披露する。
義経とほか4名の仲間を先にいかせ、舞い終わり富樫との別れで弁慶を花道に残し、幕が下りる。
弁慶は花道で神仏に無事通過できたことを感謝し、「飛び六方」で追いかけて揚幕へ向かい舞台を去る。
見どころ
1、飛び六方
舞台を去る弁慶が最後に行う名シーン。六方(東西南北天地)の全方位に手のひらをむけ、果てまで届けという強い気持ちをこめて飛び跳ねながら進む姿。
2、白紙の勧進帳を読み上げ、富樫がのぞき込もうとするシーン。
3、山伏問答
少し難しい台詞回しとなりますが、非常に調子のよいやり取り。
4、打擲
主を生かすために、心を鬼にして杖でたたく。弁慶の悲痛な表情。
5、延年の舞
非常におおらかな空気が広がり、華やかな舞いが会場全体を包みます。